やさしい先輩の、意地悪な言葉
「え……?」

神崎さんは、一歩私に近づき、なぜか顔を近づけてきた。


「本当に俺、なにも言ってない?」

「は、はいっ」

なにも言っていない、と答えているのに、神崎さんは不安そうな表情を変えず、そしてなぜか……どんどん顔を近づけてくる。

ひえぇええどういうこと⁉︎ なにこの状況⁉︎ なんでこんなに顔が近いの⁉︎
そりゃあもちろん、私が好きなのは隆也ですよ⁉︎でも、神崎さんのキレイで整ったお顔がこんなに近かったら、心臓がドキドキしてしまうのは仕方ないといいますか……‼︎


「なにか嫌なこと言って泣かせたりしてないかなって心配で……」

なぜかものすごい至近距離でそう伝えられ、私は緊張でなにがなんだかわからなくなり、必死に。


「だ、大丈夫ですっ! ショックを受けただけで泣いてはいませんんん!」

……と、言ってしまった……。



しん、と書庫室が静まる。

しまった。『嫌なこと言われた』って認めちゃった!



「あ、あの」

私が自分の言葉を慌てて否定しようとすると。



「……ごめん!」

と、神崎さんが至近距離のまま、私の両肩を両手で掴み、すごく申しわけなさそうな表情で謝った。


「本当にごめんね‼︎」

「い、いえ大丈夫です……っ、それよりお顔が、近……」

「本当にごめん……!」

神崎さんはお顔の距離を変えることなく、ただひたすら私に謝る。


本当に、謝ってくれなくて大丈夫。お酒のせいだって理解してるから。
まあ、お酒の勢いで言ってしまった本音なのかなって考えると、やっぱりショックなのには変わらないけど……。
でもこんなにもしっかり謝ってくれたし、私ももう気にしないようにしなきゃ……。
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