やさしい先輩の、意地悪な言葉
そう思った、その時。


「祐介、お前、はたから見たらセクハラっぽいぞ、それ」

! いつからいたのか、書庫室の入り口のところに二山さんがいた。
神崎さんは書庫室の戸を背にしてるから気づかなくても仕方ないとはいえ、私は入り口の方に体を向けていたのに、神崎さんとの距離に動揺しすぎて二山さんにまったく気づかなかった。


「え? ああ、ごめんね」

二山さんに言われ、神崎さんはとくに慌てる様子もなく、冷静に私の両肩から手を離し、同時に顔も離した。


二山さんも、はあ、とため息をつきながら私たちに近寄り。

「お前さあ、人と話す時にやたら顔近づけるそのクセ、早く直せって何度も言ってるだろ」

と、もう一度深く息を吐きながら、神崎さんに注意するように言った。


「ク、クセだったんですね」

必死で平気なふりをしながら私はおふたりに話しかける。

「そんなクセがあったんですね……。今まで顔を近づけられたことはありませんでしたし、誰かにやってるところも見たことありませんが……」

「仕事ではさすがにやらねぇけど、プライベートとか、今みたいに少し感情的になったりするとやっちまうみたいなんだよ」

二山さんはそう説明してくれたあと、ごめんな、と軽く右手を挙げながら私に謝った。


そして。
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