やさしい先輩の、意地悪な言葉
それに対しては、今度は神崎さん本人が答えてくれる。

「正直……あんまり記憶はなくて。酒を飲んで、すぐ酔っ払って、酔いがさめ始めた頃の記憶がやや残るくらいで……。
金曜日も、家に帰ったあとの記憶が若干あるくらいで、瀬川さんと会った覚えがなくて……」

「そ、そうなんですね。
ちなみに、神崎さんがお酒を飲むと人が変わるという事実を知っている方はほかにどのくらいいらっしゃるんですか……?」

「ほとんどいないかな。
大学生の時に、ゼミ仲間数人といっしょに初めて酒を飲んだ時に、やっぱり人が変わったみたいで。
正直、自分自身はそれを覚えていなくて、あとからそのゼミ仲間たちに聞いたんだけど。
でも、アルコールが抜け始めた頃のうっすらとした記憶をなんとか辿ると……ああ、確かにみんなの言う通りだ、って。
それからしばらくして、実家でも酒を飲んでみたけど、やっぱり同じことになって、家族からも『お前は酒を飲むな』と言われたよ。

だから会社の飲み会とかでは一切飲んでない。
だから俺のこの体質のことを知るのは、最初にいっしょに酒を飲んだゼミ仲間と、家族と、大和と、そして瀬川さんくらいかな」

すると二山さんが「でもさ」と口を挟む。

「酒に弱いとはいえ、酒が嫌いな男なんていないだろ? こいつもほんとは飲みたいんだよ。だからこの間の金曜みたいに、俺が時々ふたりきりで飲みに誘ってるってわけ。俺はこいつの同期で、親友でもあるから、酒飲んだこいつになに言われても気にしないしなー」
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