やさしい先輩の、意地悪な言葉
「そうなんですね……。二山さんはどういうきっかけで神崎さんのお酒の事情を知ったんですか?」

「職場の飲み会でも同期会でも全然飲まないから、『そんなに弱いの?』って聞いたんだよ。そしたら事情を教えてくれて。祐介も、身近な誰かに相談したいって気持ちがあったみたいで。

で、信じがたかったのもあって、とりあえずふたりで飲みに行ったんだよ。
いやあ、初めてこいつと飲んだ時は俺もやっぱ驚いたわ。まあ俺はあらかじめ祐介本人から話を聞いてたわけだから、まだ冷静でいられたけど」

「なるほど……」

すると神崎さんは、気恥ずかしそうにコホンと咳払いをしてから。


「事情を知ってるのに、なんで金曜日に瀬川さん誘うんだよって思った。ふたりきりじゃなきゃ困るんだよ、俺が」

「いや、あれはノリだって。遥香ちゃんがあの流れで『じゃあ行きます』って答えるとは思えなかったし」

「それはそうかもしれないけど、急にあんなこと言うから、動揺して瀬川さんに冷たい態度取っちゃったじゃないか。
瀬川さん、あの時も本当にごめん。あのあと何度も謝ろうとしたんだけど、避けられてたみたいだったからなにも言えなくて……」

「あっ、いえ、私の方こそすみませんでした!」

そうだった。私、神崎さんの話を聞くのが怖くてずっと逃げてたんだった……!

神崎さん、本当にごめんなさい。
でも、あの態度はご自身のお酒の事情を隠したかったからであって、相手が私じゃなくてもああいう言い方をしたってことだよね。それにはちょっと安心した。
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