やさしい先輩の、意地悪な言葉
「お、おはようございますっ。お待たせしましたっ」

神崎さんに声をかけると、神崎さんは私を見て、にこっと笑ってくれた。


「おはよう。今日は来てくれてありがとう」

「え⁉︎ い、いえそのそんなとんでもないです……!」

……やっぱり、周りの女の人たちの視線をすごく感じる……。『なんであんな子と?』って声もなんとなく聞こえた。

…….でも、べつにほんとのデートってわけじゃないし、うん……周りからの視線や声は気にしないようにしよう。


「私服初めて見た。かわいいね」

「えぇっ⁉︎ い、いえいえ‼︎」

……デートじゃないんだからかわいい格好で行く必要はない……とも思ったけど、だからといってダサい格好で来るのは、せっかく一日付き合ってくれる神崎さんへの礼儀がなってない気もして、結局普通にオシャレしてきてしまった。
レース襟の白い半袖のブラウスに、フラワー柄の膝丈スカート。お気に入りのベージュのハンドバッグに、足元はやっぱりお気に入りのピンクのミュール。
隆也には服装を褒められたことがほとんどなかったから、かわいいと言ってもらえたことは……素直にうれしく感じてしまった。

神崎さんは、ボーダーのカットソーに白シャツ、そして黒いパンツをはいていた。
カジュアルな格好ではあるけれど、スタイルの良さが際立って、となりに立つのはやっぱり恐縮してしまう。


ああ、緊張する。
緊張する時は、いつもなら誰かに事前に相談したりしてその緊張を和らげたりするんだけど、神崎さんがお酒に弱いという秘密を口外するわけにもいかず、そうなると今日こうして神崎さんに会うことも誰にも説明できず、結局ただただ膨らんでいくばかりの緊張感を抱きながら今週はずっと仕事をしてた。
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