やさしい先輩の、意地悪な言葉
駅から街の方へなんとなく歩き出してから、「行きたいとことかある?」と、神崎さんが聞いてくれた。


「いえ、どこでも」

「どこでも? なにかあればどこでも付き合うよ」

「えっと……」

しまった。なにか考えてくるべきだったかな?
隆也とのデートって、いつも隆也の好きなとこへ行ってたんだよね。
趣味はあまり合う方じゃなかったから、私の行きたいとこには隆也は行きたがらなかった。隆也とは、結構アウトドアなデートが多かったな。それはそれで楽しかったんだけど……。

でも、そんなこともあり、私は今日も神崎さんの行きたいところに行くつもりになってしまっていた。私へのお詫びなんだから、私が行きたいところを考えておくべきだったのに。


「えと、えと……」

どうしよう。慌てるとますます考えがまとまらなくなる。


すると神崎さんは。

「好きなことや、好きなものはない?」

と、やっぱりやさしい声色で聞いてくれて。


「あ……」

どうしよう。言ってもいいのかな。戸惑ったけど、神崎さんがとてもやさしかったから。


「……映画、が好きです……」

と私は答えた。


「映画?」

「あっ、その、もし神崎さんが映画嫌いじゃなかったらですけど!」

私が慌ててそう言うと、神崎さんは、気のせいか今までよりうれしそうに笑ってくれた気がして。

「俺も、映画好きだよ」

「えっ、本当ですか!」
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