やさしい先輩の、意地悪な言葉
「うん、本当だよ。周りに映画が好きな人があまりいなくて、最近はDVDを借りてきて家で見ることの方が多くなっちゃってるけど。
恥ずかしいんだけど、なんの予定もない休日は一日中DVD観たりしちゃって」

「あ、私もです! 私は、レディースデーにひとりで映画館行っちゃったり」

「そうなんだ。うれしいな、同じ趣味の人がこんな身近にいて」

「私もです!」

隆也は映画に興味がなくて、とくに映画館は好きじゃなかった。映画の上映中、約二時間、座りっぱなしでただずっと映像を観てることのなにが楽しいんだって言われ、隆也と映画館に行けたことは一度もなかった。
私か隆也の家でDVDを観たことは数回だけあったけど、隆也は私のとなりで寝てるか携帯いじってるかで、映画は全然見てなかった記憶がある。


「この先に映画館あったはずだよ。行ってみよう」

「はい」


……あ。ついはしゃぎそうになってしまっていた。
ダメダメ、隆也じゃない男の人といっしょに過ごすのに、こんなにうれしくなっちゃ……。
あくまで映画館に行けるのがうれしくてテンションが上がりかけただけ。相手が神崎さんだからっていうわけじゃない。……って、さっきもこんなこと思ったばかりだ。

それに……なんでさっきから、隆也と神崎さんを比べちゃうんだろ……。



でも、私、なんだか。
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