やさしい先輩の、意地悪な言葉
「瀬川さんは、好きな動物とかいる?」

「私は犬が好きなんです」

「ほんと? 俺も犬すごい好き」

「そうなんですか! かわいいですよね。実家で二匹飼ってまして」

「へぇ。写メとかあったら見たいな」

「あります! ぜひっ」


……なんてことない会話だけど。

神崎さんのこと、誰よりも話すのに緊張してしまう相手だったはずなのに。


……緊張がまったくほどけたわけじゃない。
でも。

気づいたら今までよりずっとリラックスして話せてる。


映画や犬。好きなものが同じだっていうのもあるけど、神崎さんが、私が話しやすいようにしてくれてるのかなとも思った。



やさしくて、素敵な先輩。

周りにささやかれてるその言葉は、やっぱり確かみたいだ。もちろん疑ってたわけじゃないし、その通りだなってずっと思ってたけど。

でも、改めてそう思って。


神崎さんのそんな気遣いを感じつつ、私は神崎さんといっしょに映画館へと向かう。


歩幅を合わせてくれてることにふと気づいた時、またうれしくなってしまった。
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