やさしい先輩の、意地悪な言葉
「おー、遅ぇよ遥香ー」

玄関で靴を脱いでいると、部屋の方から隆也が出てきてくれた。


「ごめんね。すぐ夕飯作るね。頼まれてたものとかもいろいろ買ってきたよ。はい、あとで確認してね」

食料品が入ってない方のレジ袋を隆也に渡し、私はすぐに台所に向かう。……正しくは、向かおうとした。



「…….隆也?」

隆也は私の後ろから、私をすっぽりと覆うように私のことを抱きしめてきた。


……隆也も、神崎さんほどじゃないけど背が高く、平均より少し身長が低めの私は、隆也と抱きしめ合うといつも隆也の筋肉質な体の中にすっぽりとうまってしまう。
……でも、それは嫌じゃなくて。むしろ、自分が隆也だけのものになったみたいな気がして、幸せになる。付き合ってた頃はもちろん……フラれてからも。


「ねぇ、しよ?」

「え?」

ここに来てまだ一分も経ってないのに突然そんなことを言われ、驚く。もちろん嫌じゃないんだけど……。


「で、でも夕飯の用意しなきゃ……」

「じゃ、台所でやる?」

「そういうことじゃ……ん……」

久しぶりに会った隆也に甘くキスをされ、それは次第に深いものにかわる。

私の頬に触れる隆也の右手の体温が、すごく心地いい。……もっともっと、隆也の体温のすべてを感じたい。


……夕飯の支度のことなんて、すぐに頭から吹き飛んでしまった。
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