やさしい先輩の、意地悪な言葉
近くにあった雑貨屋さんに入ってすぐ、神崎さんが心配そうな表情を浮かべてそう聞いてくれた。


「えっ⁉︎ いえ、そんなことないですよ⁉︎」

「……そう?」

「はい! あ、このメモ帳かわいいですね!」

文具売り場でたまたま目に入った、犬の写真がプリントされたメモ帳を棚から手にとってそう答える。

いけないいけない……いろいろ考えていたのが顔に出てしまってたみたいだ。神崎さんに心配かけちゃダメ……。



それでも神崎さんは。


「もしかして、ほかに行きたいところあった?」

と、私を気にかけてくれる。


「い、いえ、本当に違うんです」

「でも……」

ど、どうしよう。私、そんなに難しい顔してたかな。

心配そうな顔を向けてくれる神崎さんに申しわけなくて、なにか答えなきゃって思うけど、なんて答えていいかわからなくて。


……神崎さんのことを意識してました、とは当然言えない。



「……神崎さんは、自分が嫌になることって、ありますか?」

私の口から出た言葉は、そんな質問だった。



「え?」

神崎さんが不思議そうに私を見つめる。


「あっ、その……」

なんでこんなこと聞いちゃったんだろう……。たぶん、私が自分に自信がないから。
自分なんか……ってずっと感じてたから、とっさにそんな言葉が出てしまったのかも……。


「ご、ごめんなさい。変な質問……聞かなかったことに……」

「あるよ」
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