やさしい先輩の、意地悪な言葉



ーー……

「おい。早く店員呼んで次のビール頼めよ」


……


神崎さん、まだ一杯しか飲んでいないのに、その変わりよう。


あれからすぐに、私たちは駅の近くの居酒屋さんに入った。
開店したばかりだったから、まだお客さんは少なくて、居酒屋さんの割にはまだ静かで落ち着いていた。

初めて入るその居酒屋さんは、全室が個室で、室内は引き戸で区切られてる。


ふたり用の個室に通され、引き戸を閉めると、まずは今日一日のことを振り返って、笑い合ったりした。楽しい時間だった。

それからしばらくして、ふたりで生野菜サラダと、お刺身と、冷やしトマトと、そしてビールを頼んだ。

料理とほぼ同じタイミングで持ってきてもらったビールは中ジョッキに入っていて、私たちはひとつずつ手に持ち、料理が来てから乾杯した。



そして。

その五分後、神崎さんはあっという間に酔ってしまった。


「聞いてんのか瀬川。早くしろよ」

「困ります。それ以上酔われてしまったら、お互いどうやって帰ればいいんですか」

私もお酒が入っているため、いつもよりははっきりと自分の意見を伝えられた。


「なんでだよ。生意気だぞ瀬川」

「神崎さんのことを思って言ってるんじゃないですか」

そんなことを言い合っていると、スカートの中の携帯が震えた。
確認すると、二山さんからのLINEだった。


『念のため言っておくけど、夕飯どこ行くかって話になっても、絶対飲みには行くなよ』
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