やさしい先輩の、意地悪な言葉
「じゃあせめて、お前のビール一口よこせよ」

「えっ? あっ……」

神崎さんは、言葉と同時に私のジョッキを取り上げ、残りをすべて飲み干してしまった。すべてといっても、そんなに残ってなかったけど。ていうかそれより……


「ん? なに?」

「え、い、いえその……」

「間接ちゅーくらいで動揺してんじゃねーよ。ヤることヤッてるくせに、中学生かお前は」

「んなっ」

そういうお下品なことを言わないでください、と私はお酒の力も借りて言い返すけど。


……でも、意識してしまっていた。神崎さんの言うことは、図星だった。

べつに、私だってただの間接キスくらいならそこまで気にしないけど……


さっきからずっと意識してしまっている神崎さんとの間接キス……なんだから、少し気にしてしまうくらい仕方ないじゃないか。



……神崎さんは、さっきから口が悪い。
でも、普段とは違う神崎さんをゆっくり感じられて、むしろうれしさを感じてしまう。私がM体質だからかもしれないけど。

でも、もしこの間みたいになにかキツい言葉を言われたとしても、それは『思春期の意地悪』だということを知ったあとだから、全然許してしまうと思うし、喜んでしまうとも思う……。



そんな神崎さんが言った。


「瀬川、お願い、あと一杯だけ頼んで」

両手を顔の前で合わせて、酔ってて口は悪いのに、甘えるようにそう言ってきて。
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