やさしい先輩の、意地悪な言葉
「仕方ないですねぇ」

なんだか、家での夕ご飯のあとの夫婦のやりとりみたい……なんて調子乗ったことを思った。


でも、まぁ。この場には私と神崎さんのふたりだけだし、神崎さんの口が悪くなるのは私は気にしないし、神崎さんも確実に酔ってはいるけど、顔色が悪いわけでも呂律が回ってないわけでもないし、あと一杯くらいなら……。



「じゃ、ほんとにあと一杯だけですよ」

「まあお前が頼んでくれなくなったら自分で頼むけど」

「ダメです。神崎さんには注文のタッチパネルに触らせません」

そんなことを言いながら、私はもう一杯ずつ、中ジョッキのビールをパネルで注文した。

ほんとに、その一杯だけ。


なのに……。



「……吐きそう」

「え⁉︎」

二杯目のビールを半分くらいまで飲んだ神崎さんは、顔を下に向け、そんな一言を発した。


「だ、大丈夫ですか⁉︎」

「……ヤバい」

たったこれだけで吐きそうなんて、今さらですがいったいどんな体質なんですか……!
でも、具合が悪いのは本当に大変だ。


「横になりますか? 少し狭いですが……」

「いや、横になると余計吐きそうになるかも」

「え、えと、じゃあ水! 水持ってきてもらいますね!」

「うん……」

すぐに店員さんを呼んで、コップに入った冷たい水を飲んでもらった。
でも、神崎さんの具合はよくならなかった。


「少し早いけど、もう帰りましょうか。ご飯もそれなりに食べましたし」
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