やさしい先輩の、意地悪な言葉
私は小食な方だからもう結構お腹いっぱいだし、それよりも具合の悪い神崎さんを早く休ませてあげたい。


「駅はすぐそこだから、歩けます? あ、でも駅からおうちは遠いですか?」

「……駅までは歩ける。最寄り駅着いたら家まではタクシー拾う」

「わかりました! じゃあ、おうちの前までは私も付き添いますので!
私、お会計してきますのでここで待っていてください」

「いや、いっしょに行ける」

「体支えましょうか?」

「大丈夫」

ふらふらと歩く神崎さんを心配しながら、私はお会計を済ませ、いっしょに駅まで向かおうとした。けど。


「……ごめん、駅までもたないかも」

「え?」

お店を出てすぐのところで、神崎さんが下を向きながら言った。


「もう、吐きそう」

「えっえっえっ」

どどどどうしよう……‼︎ ガマンしてください、は言っちゃダメだよね……⁉︎ それに、電車まではガマンできたとしても、電車の中で吐いちゃったらもっと大変だし……。でも、じゃあ、どうすれば……。


「さ、さっきの居酒屋さん戻りますか? トイレ借りましょう」

「……さっきは横になるの嫌だったけど、今は頭が痛いからどうしても横になりたい……」

「横にですか⁉︎ でも近くにそんな場所……」


……ないことはないけど、でもあそこは……。


「……あそこ行きたい」

そう言って神崎さんが指差したのは、私が今一瞬目を向けた……



ラブホ街。
< 82 / 134 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop