やさしい先輩の、意地悪な言葉
駅に行く道とは一本外れた通りに入るとそこはラブホ街で、大きな看板が恥ずかしげもなくピカピカと光ってるのが見える。


「な、なに言ってるんですか! そんなとこダメですよ!」

夜風は涼しいけど、私も決してお酒に強い方ではないから、さっき飲んだお酒がまだ残ってて、はっきりと断ることができた。


でも……



「違う。やましいこと考えてないから。ただトイレで吐いて、横になってゆっくり休みたい」

「確かに居酒屋さんに戻ったところでゆっくり休むことはできませんが……」


だからといって、付き合ってもいない男女が、しかも会社の先輩と、ラララブホなんて……‼︎


「お願い」


……お酒を飲んで、口が悪くなってるはずの神崎さんから、そんな風に真剣にお願いされてしまったら。


……神崎さん、ずるいですよ! いろんな顔を持ちすぎです‼︎ しかも、その全部が結局私のこと動揺させるんですから‼︎


……違う、動揺させられてるんじゃないの、これは、あくまで神崎さんを助けるため‼︎


「わかりました。向かいましょう。あと、やっぱり支えますね」

神崎さん、さっきより具合悪くなってそうだし、こうしてホテルに入った方が、『ヤるわけじゃないよ、休むだけだよ』ってホテルの人にアピールできる気もした。いや、アピールする必要ないけど。
……もしかしたら、自分自身にそう言い聞かせるためかもしれない。
隆也への罪悪感ってわけじゃないけど……やっぱり、恋人じゃない人とホテルに入るのは抵抗があったから……。
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