やさしい先輩の、意地悪な言葉
そんなことを考えていると、洗面所から出てきた神崎さんと目が合った。


「あ、あの、すみません。私も寝ちゃって」

私が謝ると、神崎さんは「ううん。むしろ俺の方こそ……」とやさしい声色で答えた。酔いが覚めて、いつもの神崎さんには戻ってる。


神崎さんは、ゆっくりとベッドに腰かけた。
もちろん、私との距離はそれなりにあいていたけど……ベッドの上にいっしょにいる状況って……やっぱり少し緊張してしまう。


「もう、酔いは大丈夫ですか……?」

「うん。ほんとにごめんね。瀬川さんは?」

「私ももう完全に酔いは覚めてます」

「そっか」


……ふたりの間に、沈黙が訪れる。
神崎さん、まだ本調子じゃないのかな? もう酔ってはいないのに、なんとなくまだぼんやりとしていて、普段通りとまではいかないような気がする。


「……何時にホテルから出る?」

先に沈黙をやぶったのは神崎さんで、神崎さんは私に静かにそう聞いた。


「……えと、何時に出ても料金は変わらないみたいですね。もちろんふたりで朝までいるわけにはいきませんが……。
神崎さん、まだ本調子じゃないみたいですし、もう少し休んでから帰りましょう。終電の時間にはまだ全然余裕ありますし」

私がそう答えると、神崎さんは「うん……」と小さい声で答えた。
まだ気持ち悪いかな? それとも頭痛いとか?


「お水、飲みますか?」

今度は私が神崎さんに質問した。
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