やさしい先輩の、意地悪な言葉
安心させようと思って答えたはずが、安心要素があるはずはなく、神崎さんは彼らしくないぽかんとした表情で一瞬かたまった。

そして、その直後、神崎さんははっとしてみせた。
どうやら、キスをしてきた時は多少なりともお酒が抜けていたから、記憶は少し残ってたみたいで。

何度も何度も、頭を下げて謝られた。

『酔いが覚め始めた頃はいつもこうなんだ。大和にもキスしたことある』と言われたから、自分がお酒を飲むとキス魔になると自覚はあったみたいだ。
……二山さんと神崎さんのキスについては、あまり想像しないようにしようと思った。


神崎さんがお酒に弱いことは知っていたし、それを知ったうえで私の方から飲みに誘ったのだし、しかも“彼の秘密を私も共有したい”、なんて下心もあったわけなので、私に神崎さんを責めることはまったくできなかった。一応、キスだけで終わったし。


それでも何度も謝ってくれる神崎さんに、逆に私の方が申しわけない気持ちになり、私はつい、「本当に大丈夫なので……なかったことにしましょう」なんて言ってしまった。

神崎さん的には、「そんなわけには」と思ったみたいだけど、それでもその場はその話はいったん終わり、私たちは始発の時間に合わせてホテルを出て、私が家に着いた頃、神崎さんから改めて謝罪のLINEが来た。

そういえば以前も神崎さんから改まった謝罪のLINEもらったな。本当に、丁寧な人だと思う。


そして、今日、月曜日。
いつも通りほかの女性社員のみなさんより早く出勤した私に、神崎さんは「融資関係の書類で出してほしいものがある」と言って、私を書庫室につれていった。
そして、直接また謝ってくれた。
もちろん私は「本当にもう大丈夫です」と答えた。
神崎さんは、土曜日の居酒屋での食事代とホテル代を封筒に入れて私に渡してくれた。

そして現在に至る。
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