やさしい先輩の、意地悪な言葉
十八時に仕事が終わり、電車に乗って隆也の家に向かう。

仕事が終わったあと携帯を見たら、『夕飯の材料なにか買ってきて、うちで作って』というメッセージが隆也から送られていた。

でも、今日はほかに気になる人ができたっていう話をする。
だから、もう隆也に夕飯は作らないと決めて、『今日は作れない』と返信した。

そのメッセージは既読になったまま、返事はなかった。



アパートの玄関の前に到着し、チャイムを鳴らす。

隆也はすぐに出てきた。


……すごく不機嫌そうな顔だった。


「あの……」

「……上がれよ」

「う、うん……」

怒ってる隆也の様子に少し怯えながら、私は靴を脱いで中へ上がらせてもらった。


隆也の機嫌が悪い理由は、わかってる。



「夕飯作れねぇってなんだよ」

部屋に入ってすぐ、隆也が低い声で私にそう言った。


「その……」

隆也は自分の頼んだことや言ったことをやってもらえないと、すぐに機嫌が悪くなる。
だから、夕飯を作ることを拒否した時点で相当怒るかもということは覚悟していた。


でも、ここで隆也のために料理をしたら、今までと変わらないと思ったから。



「……今日、大事な話があって」

私は静かにそう言った。


隆也はなにも答えず、私を睨んでいる。
……私がなにを言おうとしてるか、隆也もうっすらと気づいているかもしれない。

ふーん、あっそ、で終わる話だと最初は思ってたけど、今はそうは思わない。機嫌の悪い時にする話じゃないかもしれない。
でも、今日言うって決めたから、先延ばしにしたくない。
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