やさしい先輩の、意地悪な言葉
「……ほかに気になる人ができたの」

私は立ったまま、正面に立つ隆也にそう話した。

ごまかすつもりは一切ないから……隆也の目をまっすぐ見て、きちんと伝えたつもりだ。


でも隆也は、

「は?」

と、さっきよりもさらに低い声でそう答えた。



「ごめん……っていうのもなんか違うんだけど。私とっくにフラれてるし。
隆也のことは本当に好きだったし、大事な存在だったけど……でも……」


大事な話だから、どうやって伝えるか、なんて話すか、事前にきちんと考えていた。
でも、いざとなると緊張して、うまく話せない。


……そんな私の態度が、隆也を余計にイラつかせたかもしれない。



「あんだけ人のこと好き好き言っといて、なんだいまさら」

「えと……」

「すっげぇムカつくんだけど。なんかバカにされてる気分だわ」


そんなつもりはない、と伝えようとした。
でもーーその時。



ーーガジャーーン。


隆也が、自分の後ろの本棚の上に置かれていた灰皿を手にし、それを私に向かって投げつけた。

私はびっくりして動けなかったけど、灰皿は私に当たることなく、私の顔の横を通りすぎ、そのまま大きな音を立ててうしろの壁に当たり、床に落ちた。

……本当に私に灰皿を当てるつもりはなかったと思うけど、私は驚いて、そして怖くて、なにも言えなかった。
足が震えて、その場から動くこともできない。

……隆也に怒られたことは今までたくさんあるけど、ものを投げられたのは初めてだった。
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