強気な彼から逃げられません
まだ愛さない
①
終電間際の駅は、どうしてこんなに混み合うんだろうと、いつも不思議に思う。
お酒を楽しんだだろう真っ赤な顔のサラリーマンたちが徒党を組んで駅の入り口あたりを陣取っていた。
明るい雰囲気の中には、女の子も何人か混じっていて、楽しい宴会だったんだなとわかる。
そのグループから少し離れた場所では、若い男の子と女の子が向かい合って何やらスマホを寄せ合っていた。
あ、連絡先交換だな。
こっそりとアドレスの交換をしているようだけど、ちょっと離れた場所にいる私の視界には、周囲の人たちがその様子を温かく見守っている様子もあって。
ようやくうまくいったか。
という声も届きそうな柔らかな温度を感じて、ちょっと羨ましくなった。
そんな場面を見ながら足早に改札を抜けようとすると、
「南町方面のやつはいるかー? タクシーにあと二人乗れるぞ」
大きな声が聞こえた。
『南町』
その言葉にピクリと反応した私は、改札に向かっていた足を止めて振り返ってしまった。
「桜町方面はもう4人そろったからタクシー出るぞ。あとは南町だけだから、乗るやつは急げ」
若手だろう男性が、タクシーの横に立って叫んでいた。
緩められたネクタイを揺らしながら同乗者を募っている。
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