強気な彼から逃げられません
「だろうな。俺の極上の笑顔にも特に何の感情も見せないし、さらりと法務部に取り次ぐだけだもんな。あ、そういえば、お前の後輩? の受付の女の子には連絡先聞かれたけどな」
くくっと思い出し笑いをする怜さんに更に驚かされた私は、会社に尋ねてくる取引先の方々の顔を浮かべてみるけれど、怜さんの事は思い出せなかった。
日々大勢の来客があるせいか、顔と名前を一致させるのは難しい。
頻繁に来られる人だけしか覚えられないのは私の努力不足でもあるし、上司にはよく注意されている。
「ごめんなさい。お客様の顔とか、なかなか覚えられなくて」
小さく頭を下げた。
申し訳ない気持ちと、ずっと私を知っていてくれたんだというほんの少しの嬉しさ。
その複雑な感情が合わさって、どんな顔で話せばいいのか更に困って俯いた。
私の知らない所で私を見ていたなんて、ちょっと怖い気持ちもあるし、それが見た目麗しい怜さんだったという、自慢げな気持ちが絡まって、どうにもこうにも理解できない自分の気持ち。
「どこで見てもいつ見ても、俺はお前の事が気になってたんだ。 俺の好みだって一言でしか説明できないけど、それだけじゃだめか?」
「好みだって言われても、どう答えていいか。私は、怜さんの事を今日知ったばかりだから、どうしていいのかわからない」
そっと視線を合わせると、相変わらずの強い視線が私を捉えている。