強気な彼から逃げられません
その言葉や、その言葉を聞いている仲間の人たちの様子からは、そんな展開は日常茶飯事なんだろうとわかる。
いつも、同じ方面のメンバーを集めてタクシーに乗って帰っているんだろう。
会社での宴会の後に、私も何度か経験したことがある光景に、くすりと笑っていると。
タクシーの横で声をあげていた男性と不意に目が合った。
ただ単に目が合っただけなのに、その男性は何故かはっとしたように目を見開いて。
そのまま小走りに私の方へ駆け寄ってきた。
え……え?
周りを見回しても、帰りを急ぐ人たちが次々と改札を通り過ぎるだけで、彼が目指しているらしい人は見当たらない。
私は首を傾げながら、ま、いっか、と。
手にしたICカードを改札にかざそうとした途端。
ぐいっとその手を掴まれた。
「タクシー、乗っていけよ」
慌てて改札機から私を引き離したその男性は、ほんの少し荒い息をしていた。
「あ、あの……」
その男性は、 突然の出来事に言葉を失った私の手を掴んだまま口を開いた。
「あ、悪い。タクシーに一緒に乗っていけよ。どうせ帰る方向一緒だろ?」