強気な彼から逃げられません
②
私が勤務する会社は、世間でも名前が知られている有名企業だ。
システム開発を本業とし、あらゆる分野の会社と繋がりを持っている。
本社ビルに出入する社員以外にも、取引先の方が多数来られるせいで、受付で働く私は毎日忙しい。
常時3人の受付嬢を配置しているにも関わらず、忙しい時には受付のカウンターにはかなりの人が取次を待って並ぶ。
そんな理由もあって、私が怜さんの事を覚えていなかったとしても、仕方がないと思うのは、自分のプロ意識のなさゆえなんだろうけれど。
特に仕事に手を抜いている意識もなく、自分の能力いっぱい頑張っているんだから……仕方がない。
今日も、朝から続いたたくさんの来客の取次を乗り越えて、ふと振り返れば。
「先輩、経営企画に来られた銀行マンの男性、素敵でしたね」
そう言ってにっこりと笑っている後輩の言葉に首をかしげた。
「え、誰だっけ? 経営企画……」
後輩の言葉に記憶をたどるけれど、素敵な銀行マンって一体誰?
面食いの後輩の言葉だから、きっとかなり格好いい男性だったんだろうけれど、大勢のお客様の顔をいちいち覚えていられない。
「ごめん、覚えてない」
へへっと肩をすくめてごまかした。
そんな私に、後輩である志菜子ちゃんは呆れた声でため息をついた。
「まあ、いつもの事ですけどね。先輩、もう少しお客様に色々と気を配っておかないと、いい男を手に入れる事なんてできませんよ」
「手に入れるって、え? そんなの無理だよ」
あっけらかんと呟く志菜子ちゃんの言葉が理解できなくて、思わず大きな声になった。