強気な彼から逃げられません


私が勤務する会社は、世間でも名前が知られている有名企業だ。

システム開発を本業とし、あらゆる分野の会社と繋がりを持っている。

本社ビルに出入する社員以外にも、取引先の方が多数来られるせいで、受付で働く私は毎日忙しい。

常時3人の受付嬢を配置しているにも関わらず、忙しい時には受付のカウンターにはかなりの人が取次を待って並ぶ。

そんな理由もあって、私が怜さんの事を覚えていなかったとしても、仕方がないと思うのは、自分のプロ意識のなさゆえなんだろうけれど。

特に仕事に手を抜いている意識もなく、自分の能力いっぱい頑張っているんだから……仕方がない。

今日も、朝から続いたたくさんの来客の取次を乗り越えて、ふと振り返れば。

「先輩、経営企画に来られた銀行マンの男性、素敵でしたね」

そう言ってにっこりと笑っている後輩の言葉に首をかしげた。

「え、誰だっけ? 経営企画……」

後輩の言葉に記憶をたどるけれど、素敵な銀行マンって一体誰?

面食いの後輩の言葉だから、きっとかなり格好いい男性だったんだろうけれど、大勢のお客様の顔をいちいち覚えていられない。

「ごめん、覚えてない」

へへっと肩をすくめてごまかした。
そんな私に、後輩である志菜子ちゃんは呆れた声でため息をついた。

「まあ、いつもの事ですけどね。先輩、もう少しお客様に色々と気を配っておかないと、いい男を手に入れる事なんてできませんよ」

「手に入れるって、え? そんなの無理だよ」

あっけらかんと呟く志菜子ちゃんの言葉が理解できなくて、思わず大きな声になった。


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