強気な彼から逃げられません




「須藤さんの事を気に入ってるお客様は結構いるわよ」

「は……まさか、そんなこと」

「そんなこと、あるのよね。須藤さんは一生懸命受付の仕事に集中しているし、もともと鈍感だから気づかないだけで、見るからに須藤さんを狙って受付に来ている人は複数いるもの」

あまりにも滑らかな口調で話す先輩は、

『やっぱり気づいてなかったか』

とでもいうように肩をすくめながら言葉を続けようとしたけれど、はっとしたように玄関に現れた人影に視線を移した。

「あ、お客様だ」

志菜子ちゃんも気付いたようで、慌てた気持ちを隠して静かに席から立った。

先輩の言葉に気持ちは揺れているけれど、とにかく仕事に集中しなくては、と浅く息を吐いてお客様を待った。

カウンターの中に置いてある電話をいつでも取れるように意識を向けて、そっと顔を上げると。

「あ」

思わず声をあげてしまった。

近づくお客様の姿には見覚えがある。

細身のグレーのスーツを着ている背の高い男。

遠目から見ても意思の強そうな瞳と、颯爽と歩く姿勢には余裕しか感じられない。

どう見ても、彼、だ。

そういえば、彼はわが社の顧問弁護士事務所の弁護士だった。

思いがけない突然の来客に、心臓が暴れ始める。


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