強気な彼から逃げられません
自分の両手をぐっと握ってしまって、緊張しているのがありありと実感できる。
どんどん近づいてくる彼の姿から目を逸らせずにいると、隣に立つ志菜子ちゃんの呟きが聞こえた。
「天羽さんだ……会いたいって思った途端に会えるなんて、運命かも」
嬉しそうなその声に、思わずはっとした。
と同時に、反対隣に立つ先輩は
「彼も、須藤さんを気に入ってるお客様の一人よ」
私と志菜子ちゃんをちらりと見比べて言葉を落とした。
「志菜子ちゃんには残念だけど、勝ち目はないと思うわよ。いらっしゃいませ、天羽様。お久しぶりですね。今日は法務部へ御用ですか?
それとも、別のご用件でも?」
くすりと笑いながら、思わせぶりな先輩の声。
先輩は、私に一瞬視線を向けた後、ゆっくりと怜さんに視線を戻した。
普段の真面目な先輩の様子からは想像できないその様子に驚いて声も出ない。
「せ、先輩、どういう……」
慌てた志菜子ちゃんが、お客様の前では厳禁だというのに私語を発したけれど、そんな事どうでもいいくらいに私は茫然としていた。