強気な彼から逃げられません



今、目の前に怜さんがいる事。

志菜子ちゃんの『ゲットしたい男』が怜さんらしい事。

先輩が、怜さんのお気に入りが私だと思っている事。

そして、そんな私たちの不自然な態度を見ていた怜さんが、何故か嬉しそうな事。

全てが私を混乱させている。

全てが怜さんがらみだけれど。

受付としてここに立っている以上、しっかりと取次をしなければ、と心のどこかで叱咤しながら、受付の笑顔を浮かべようとしてもなかなかうまくいかない。

何だか焦ってしまって、ただ怜さんを見ているだけだ。

そうなると、私を見つめる怜さんとは必然的に見つめ合うような状態になる。

私と怜さんの、そんな密な雰囲気に慌てたような声で、志菜子ちゃんは。

「あ、天羽さん、いらっしゃいませ。本当にお久しぶりですね。法務部なら、ご連絡しますね。 今日は部長とお約束ですか?」

内線電話の受話器を片手に早口でそう言った。

怜さんが私を気に入っているという先輩の言葉に触発されたのか、対抗意識を持ったのか、若い女の子はなかなか頑張るんだな、とどこか他人事に思っていると

「部長とお会いする約束はしているけど、大した用じゃないんだ。 今日は、芹花に会いたくて来たってのが正解かな」

先輩は『くっ』と喉の奥を震わせて笑い、志菜子ちゃんは『うそ……』と落ち込む気持ちを隠さない呟き。

「で、芹花は? 俺に会いたかったか? それに、今まで俺がここに通っていた事、思い出したか?」

目の前の男は、こんな時でも甘い声だった。



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