強気な彼から逃げられません
「は?」
「あ……いや」
私の手を掴んだままの男性は、気まずそうな表情を浮かべつつもその手を離さない。
それどころか、
「こっちに来て」
と無理矢理私を引きずり、歩き始めた。
「ちょ、ちょっと何するのよ。私、電車に乗らなきゃいけないんだから」
私を引っ張っていこうとする彼を、どうにか足を踏ん張って拒んで改札に戻ろうとするけれど男の力に敵うわけもなく、ずるずると体は彼と一緒に引きずられていく。
「どこに連れていくのよ、困るんだけど。ひとさらいっ」
大きな声で叫ぶけれど、周りの人たちは、酔っ払いカップルの悪ふざけか痴話ゲンカとしか見ていないようで、くすくす笑ったり、迷惑そうな目で見ていたりするだけだ。
「ほんと、もう困るんだけど」
散々わめく私をちらりと見た男性は
「最寄駅が同じなんだから、一緒のタクシーに乗っていけばいい。お金はいいからさ」
「は?」
「すみれが丘だろ? 俺と毎朝駅で会うのに気づいてなかった?」
心外だとでもいうように、笑った。