強気な彼から逃げられません
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その日の仕事を終えて、志菜子ちゃんからの質問攻撃からようやく逃げた私は、更衣室を急いで飛び出した。
特に用事があるわけではないけれど、志菜子ちゃんが怜さんの事をあれこれ聞いてくるし先輩からは冷やかしの視線を投げられるしで、かなりの疲労感。
結局、怜さんが受付で私に落とした言葉の数々から導かれたものは
『彼がずっと須藤さんを気にしていること、あからさますぎるほどだったのに、どうして気付かなかったの?』
という先輩の言葉と
『芹花先輩にその気がなかったら、私が頑張ってもいいですか? ずっと天羽さんの事が、気になってたんです』
に集約されると思う。
これまで、怜さんだけでなく、お客様の中で特に私の印象に残っている人は数少なくて、相当な出来事があって私の記憶に残っている人でもない限り、その日のうちにすっぽりと忘れてしまう。
……これは、いつも部長に叱られているんだけど。
そして、私にその気がなければ、と志菜子ちゃんに言われても。
怜さんとのこれからに自信はないけれど、「側にいたい」としか言えなかった。
恋人同士になったのかと聞かれればそれにはまだ答えられないけれど、怜さんが私を好きだと言ってくれる気持ちに甘えてもいいかなと、思う自分にも気付いて。
ほんの少し和らぐ自分の感情の中には、怜さんを他の誰にも渡したくないと願う恋心もあると感じられた。