強気な彼から逃げられません
愛し過ぎて嫌われて、恋愛という盲目の世界の中で一人ぼっちになる不安が、私を席巻する。
怜さんが差し出してくれる手を離したくないのなら、これまでのように失敗してはいけない。
どんなに私の気持ちが怜さんに揺らいで好きになったとしても、その気持ちを全て吐き出さず、彼の重荷にならないようにしなければ、いつかその手は振り払われてしまう。
怜さんをどんどん好きになりそうな気持ちにガードをかけて、適度な距離感とそれなりの愛情で関係を紡いでいかなければ、きっと私は怜さんに夢中になりすぎる。
そしていつか。
きっと捨てられる。
だから、今までのように、私の全てを込めて恋に夢中にはならない。
怜さんを好きになり過ぎてしまいそうな気持ちは、セーブする。
そう思った瞬間、私の胸に溢れた痛みを消すように、怜さんと繋いだままの手に再び力を込めた。
「ん? どうした?」
振り返り、嬉しそうな顔を向けてくれる怜さんに、私は首を横に振った。
「ううん。なんでもないよ。ただ、お腹がすいただけ」
「だな。あれだけすました顔で一日受付に座ってたら、そりゃ腹もすくよな。まあ、それもかわいいんだけど、できれば俺にだけその可愛さは向けて欲しい……いや、それは無理か。
はは、ま、食べようぜ」
照れたように言葉を濁した怜さんを見つめていると、私の気持ちが全て、彼にかっさらわれたと認めるしかなかった。
簡単だな、私。
そしてそれは。
これからどんどん怜さんに夢中になって、どうしようもないほどの重い感情をぶつけていくんじゃないかという不安が、現実になった瞬間だった。