強気な彼から逃げられません




二人で入ったお店は、会社の人たちもよく使う和食のお店で、私もしょっちゅう来ている。

私は、小さな頃から料理をする事が大好きで、家族の食事も私が作る事が多かった。

一人暮らしを始める時にも、台所の使い勝手の良さと駅からの近さを一番に考えて部屋探しをしていた。

「俺、昔から人参が大好きなんだよな」

席に着いた途端呟く怜さんの声は、ほんの少しだけ子供っぽく聞こえた。

「だけど子供の頃って、人参とかピーマンが苦手な友達ばかりでさ、そんな中で俺一人が大好きなんて言えない雰囲気だった。 本当は人参もピーマンも食べたいのに、周りに合わせて皿の片隅に残す自分が情けなくて仕方なかった」

怜さんは肩を竦めて笑うと、メニューを見ながら目を輝かせ

「『鶏のから揚げと野菜の黒酢あえ』頼もうぜ。 人参もピーマンも入ってるし、お、蓮根もあるな。 俺の好みにまさにビンゴ」

嬉しそうに話すその顔は、ずっと心待ちにしていたおもちゃを買ってもらった子供のようだ。

その素直な表情や声は、スーツの胸元に光る弁護士バッジの輝きよりも、私には魅力的に見える。

「で、芹花のオススメは何? 好き嫌いってあるのか? あ、もしかして人参、ピーマンが嫌いなまま大人になったとか?」

「え、私? 私は人参もピーマンも、セロリだってなんだって食べられるよ。 私の大好物はかぼちゃだけどね。
というわけで、私がここでいつも頼むのは『かぼちゃとサツマイモのサラダ』。レーズンがいい食感で、大好きなの」

「じゃ、それも頼むか」

メニューの中から選んだいくつかの料理を注文しながら、怜さんはとりあえず、と言いながらビールも二人分注文した。


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