強気な彼から逃げられません
「「乾杯」」
冷たいビールを何口か飲みながらも、怜さんから部屋に誘われた事ばかりが頭をぐるぐると占めていって、ビールの味がよくわからない。
これまで、恋人の部屋で二人で過ごしたことなら、もちろんある。
恋人同士ならそれは当然の事だし、私の部屋で過ごしたことも、数えきれないくらいある。
二人でまったりとテレビを見たりご飯を食べたり、そして抱き合って朝を迎える事も幸せな時間だと知っている。
愛する恋人との閉鎖的な二人きりの時間が、私は大好きだ。
できることなら、愛しい人の側でごろごろと甘えて、自分の『好き』だという気持ちを思う存分受け止めてもらいたい。
愛する人が望む事全てを叶えてあげたいし、幸せにしてあげたい。
二人でいる時には、いつも体のどこかに恋人の体温を感じていたくて、絶えず側を離れられずにいた。
そんな過去を思い出すと、ちくり、胸が痛くなる。
「……どうした? 今から緊張してるのか?」
俯く私に、心配そうな怜さんの声が届いて、はっと視線を上げた。
「ううん。違う違う……あ、でも、緊張はしてるけど」
小さく呟く私に、怜さんは
「緊張するくらい、俺の事、意識してる?」
「え?」
「俺一人がずっと芹花を見てきて、それも会社で受付に座ってる時の芹花だけじゃない。たまにすれ違う駅でも俺は芹花を見てきたのに、お前は全く俺の事気づかなかっただろ」
「あ……ごめんなさい」
拗ねたような口ぶりの怜さんは、眉を寄せた。