強気な彼から逃げられません
「弁護士っていっても先の見えない水商売のようなもんだから。今は事務所に所属してるからそれなりに稼ぎはあるけど、将来独立でもしたらどうなるかわからないしな」
「え? 独立するの?」
「んー。それはないと思う。今の事務所が気に入ってるのもあるし、大きな事務所でなければ経験できない仕事って多いから。まあ、逆もまたしかりだけど。
多分、俺はずっと雇われ弁護士のままだな」
特に今の状況に不満も持っていないような怜さんの言葉を聞いていると、ほんの少し緊張していた気持ちがほぐれていく。
「独立して、かなりの稼ぎを出す弁護士もいるけど、俺はそれなりに生活できればいいから、きっと今の事務所で仕事を続けると思うし、それでいいんだ。
芹花にはがんがん攻めてるのに、保守的だろ? がっかりしたか?」
怜さんは、不安げな声で私の顔を覗き込んだ。
とはいっても、自分の言葉に自信を持っているようにも感じられるし、私には怜さんの考えが嫌ではない。
「保守的、いいんじゃない? 今の状況に不満ばかりを口にする男性は私の会社にもかなりいるけど、そんな人には魅力は感じられないし、怜さんが今の仕事を満足してこなしているのなら、それで十分。
あ、……私には、口をはさむ権利はないから……」
怜さんの仕事なのに、私が偉そうに意見していると気づいて、途端に居心地の悪さを感じた。
俯いて、最後の言葉を言い添えた。
だめだだめだ、怜さんの仕事や私生活に、私が立ち入って意見するなんて、だめ。
そんな事を続けているうちに、どんどん面倒くさいオンナだと思われ、距離を置かれていった今までの恋愛を思い出すと、どうしても俯いてためらいがちになる。