強気な彼から逃げられません

「大丈夫、私……何も言わないようにするから、怜さんは怜さんの思うようにしていいよ」

小さく笑って、そう言った。

怜さんが望むのなら、私自身の思いは胸にしまって距離を取ろう。

必要以上に怜さんの懐に入り込まないように、気を付けて、面倒くさいと思われないようにしよう。

たとえ、私が怜さんに対して寂しさを覚えても、物足りなさを感じても、これまでの様に失敗は繰り返したくない。

せっかく芽生えかけた怜さんへの恋心を大切に育てるためならば、少しくらいの切なさや寂しさは我慢しなければ……。

そんな私の本音を顔には出さないように気を付けて、笑顔を向けた。

きっと、怜さんも、私の言葉に満足してくれているはずだと、そう思いながら。

けれど、ふっと向けた視線の先にあったのは、どこか不機嫌な怜さんの表情で。

「あ、あれ……？」

予想外のその顔に、私の声は上擦った。

「俺がさっき言った事をちゃんと理解してないだろ。 俺に対して思う事を、ちゃんと言ってくれって言ったのに、どうして『何も言わない』になるんだ？」

低い声はまるで私を責めているようだ。

「俺は、芹花には俺の事をちゃんと見ていて欲しいし、何でも言ってほしい」

「で、でも、前の彼女には、そんなことを求めてなかったんじゃ……」

「あー。まあ、そうなんだよなー」

苦笑しながら、すっと顔をしかめた怜さんは、一瞬小さく息を吐いた。