強気な彼から逃げられません




その瞳の意味は、まるで私ににうぬぼれてもいいよと教えてくれているようだけど、そんな甘い考えが通用するなんて……思えない。

でも、怜さんは、元カレという言葉にかなりの嫌悪感を込めて呟いていたし、確かに私がはめていた指輪の事も知っていたし。

「芹花に恋人がいるって思っていたから声もかけず、手も出さなかったけど。 今この手にもう指輪はないから」

怜さんは、少し乱暴な仕草で私の手を取ると、今では指輪の跡すら残っていない薬指をじっと見つめた。

「芹花が、会社でも駅でも俺の事を気づかなかったのは恋人しか目に入ってなかったからだろ? 俺がどれだけ見つめても全く無視。
たまにスマホで嬉しそうに話してる姿も見せつけられていたんだ。 芹花がどれほど恋人を愛していたのか、大切にしていたのかはわかってる」

「私、全然気づかなかった……。会社でも、それ以外でも……」

「だろうな。芹花が笑顔でいる時の向こう側にはいつも恋人がいたし、仕事中だって、指輪に守られて恋人以外の男には見向きもしなかった」

じっと私を見つめる瞳と声には、特に私を責めるような思いは感じられなくて、逆に笑顔すら浮かべている。

怜さんの存在に気づいてなかったこれまでに不満をぶつけるような言葉を並べているにしては、その笑顔は矛盾している。

私の以前の恋人の話題を出しているのに、笑っているなんておかしい。

私なら、怜さんの以前の恋人の話題が出たならば、敏感に反応して不機嫌になるに違いないのに。


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