てるてるぼーず

「お前が何を不安に思ってるのかわからへんけど、俺さっきこんなん拾ったし」

そう言ってティッシュの塊みたいなものを葵の前にずいっと出して笑う山本。

「それ、捨てたのに!どこで拾ったん?!」
「そこのゴミ箱」
「人んちのゴミ箱漁るな。変態」

へらっと笑った山本の首を絞めてやる、息できん!!とか騒いでるけどそんなん知らん。
こいつ、絶対アホや。

いよいよぐぐっと首元に葵の手が食い込んできたからか、それとも殺気を感じたのか、山本は対抗するようにやっと不敵な笑みを浮かべて葵の頭を撫でた。

「これ、てるてる坊主やろ?そんなに今日晴れてほしかったん?」

素直に手を離した葵を見つめながら、てるてる坊主を持ち上げて優しく笑う。

だって、神様にだって願いたくなるやろ。

「そんな俺と出掛けたかった?」
「だって、焦るやん。一つでも思い出が欲しい、ひとつでも愛されてる実感が欲しいんやもん」


山本の股の間に立っていた葵を抱き寄せると笑いながら山本が呟いた。

「あほやろ」

葵の腕を引いて自分の膝の上に座らせるとそのまま軽く口付けて。

「思い出なんて俺はいらん」

ふんっと鼻を鳴らして山本が呟いた。
なんで?そう言葉にしかけて葵は口を噤む。


やっぱり、すきなんはあたしだけなん?
こんなに想われるのは、いや?


俯いて、言葉に出来ない想いを巡らせる。
あかん、泣きそうや。

溢れだしそうな想いに唇を噛締めて堪えてみても、上手くいかない。
ぽろぽろと頬を伝う涙は、ねぇ、悲しいから?

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