④オオカミさんのプロポーズ エリート課長の専決事項
「入りたまえ」
 社長の声と同時に、彼はぱっとドアを開けるとニコやかな笑顔を振り撒きながら颯爽とデスクに近づいた。

「あの~、何かございましたでしょうか?」 

 普段の傲岸を微塵も感じさせない態度。
 だが、その目は抜け目なく、集まった顔ぶれを見渡していた。

 皮張りの執務椅子に優雅に腰掛けている三鷹社長に、傍らに控える第1秘書、松嶋七緒はいつもどおり。

 だが…
 向こうに応接ソファに座っているのは、人事部長に副社長?

 何だ、この顔ぶれは。
 察するに、宴会のお叱りではなさそうだが…

 くそっ、全く分からん。
 

 頭を捻る大神に、三鷹社長がのんびりと話を切り出した。

「大神君、君は実によくやってくれている」
「ありがとうございます!」

 彼はいかにも嬉しそうに、45度に頭を下げた。

「……実はね。
 君の業績に兼ねてから注目していた役員から今朝、君に北九州支社を任せてはどうかという話がでたんだよ」

「え」

 ま、マジか!?

 大神は耳を疑った。
 彼はこの冬30になる。この年齢で支社長なんて、先例のない快挙。

 うまくやれば、30台で役付きだって夢じゃない。

 そうか、やっぱり今朝のアレは、
 いい事がある前触れだったんだ!

「そ、そんな…私のような若輩に、務まるものでは」

 謙虚さを装うも、込み上げる喜びを隠しきれない。

 と、ソファから副社長が立ち上がり、ふくよかな顔に満面の笑みを浮かべながら、大神の肩を叩いた。

「ハハハ、謙遜するな。
 まあ、確かに。
 まだ若すぎるのではないか、という意見もあったんだがね。社長の鶴の一声だ。決まりだよ、大神君」
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