④オオカミさんのプロポーズ エリート課長の専決事項
 __コイツは一体、何を言ってるんだ?__

 意味のわからない反応に、多少の苛立ちを覚えながらも、彼は極めて柔らかい口調で返した。

「ああ、そうだよ。今までも、これからもな」

「それが“出世の世渡り”ってやつですか?」
「ああ」

__だから何だよ、何が言いたいんだコイツは__

 吐き捨てるように返事をしてから、はっと息を詰まらせた。

「そんな…バカなこと…そこまでして」

 今にも泣き出しそうな声に、彼女の表情を伺うと、ギュッと唇を噛み締めながら、大きな瞳を潤ませている。

__何だよその反応は。
 泣きたいのは、こっちなんだよ__

 募る苛立ちに、大神はついつい声を荒げた。

「何だよ、お前には関係ないだろうが。
 あ………それとも何か?」

 大神は煙草を始末すると、彼女にゆっくりと向き直った。

 目を細めて目線を流す。
 口角を上げて皮肉に笑うと、目一杯下衆な言葉を投げつけた。

「そっか。
 お前、俺に気があるんだ」

 はっと目を見開いた彼女の両腕を強く掴むと、強引に自分の中に引き寄せた。

「いいぜ?
 思い出づくりに…一回くらい抱いてやっても。何なら今から部屋に上がるか?」


__あーあ、サイテーだな、これは。 

 まあいいさ、いっそサッパリする。

 『セクハラ!』
 なんて、真っ赤になって怒りだして。
 何なら、平手打ちくらいは受けてやるさ___

 そんな場面を期待した。


 しかし。


 燈子は瞬きもせず、大神をじっと見つめたままでいる。
 強い言葉に、力に怯え、細い腕を震わせながら、それでも視線は逸らないまま。

__ああ、もう。
 なんて可愛いヤツなんだろう。

 こんなヒドイ状況でも俺は、睫毛の震えまで、君の一挙一動を目で追っている。

 ここまで来ると病気だな。

 俺はいつも
 君に惑わされてばかりいる__
< 25 / 60 >

この作品をシェア

pagetop