④オオカミさんのプロポーズ エリート課長の専決事項
 __ああ、そうか。
 こんなに自分が焦ってた本当の理由が分かったよ。

 彼女の曰く。
 ウマイ男なら『大丈夫、気のせいだよ』って、このまま君を抱くんだろう。
 そうして何事もなかったように、関係を続けていく。
 俺だって、出来ることならそうしたい。そうしたいよ?
 だけど______

 ええいっ!

 彼は理性を総動員させ、まだポタポタと、腿に涙を落とし続ける燈子の下着を元に戻すと、肩の上にシーツを被せた。

「…トーコちゃん。俺をあんまり、見くびらないでくれる?」

「え…」
 燈子は、不思議そうに熊野を見上げた。

「君はさ、さっきから。
 いや。ずっと最初っからだよね。
 全く俺を見てないんだよ。

 俺の事、一体誰のかわりに楽しむつもりなの?」

「楽し…む?…って…?」


「トーコちゃん…よく考えて。女の下着のブランドなんか、気にする人は一体誰?」

 化粧のぐしゃぐしゃに取れた、情けない顔をして、燈子は身動ぎもせずに熊野を見た。

「分からないか?…君はね」

 濡れた頬を、武骨な掌が柔らかく包んだ。

「アイツの事が好きなんだ。
 エセフェミニストで…野心剥き出しで、やらしくてアホでどうしようもないバカの大神が」

「わたしが? まさか…」
 見開いた目を覗きこむと、熊野は微笑み、頷いた。

「俺さ、あんな奴の代りなんて出来ないよ?
 こっちから誘っといて悪いけど。
 先に帰るから、君は一晩、ここでゆっくり考えてみて」

 呆然とベッドに座る彼女を残し、熊野はそっと、部屋のドアを閉めた。
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