君に遺された恋
「父の言うことは何でもやった。
音楽・絵画・スポーツに乗馬…俺は何もできなかった…」

唐突に話し始めた彼の言葉を、
私は相槌さえ打てずに唖然として聞く。

「弱さを隠すように力だけは一人前で、
時折、そこら中にある物を殴って壊したくなるんだ。
俺はここに居るって知ってもらいたくて…」



「言われるがままにやってきたこと、何も上手くいかなかった。この結婚でさえ。」



「俺はお前が羨ましい。仕事ができて皆に愛され、
自由に外を歩くことができるお前が羨ましくてたまらない…」


「お前は俺の憧れそのものだ。」



「シャーラ。今でもお前を狂おしいくらいに愛しているよ。」



「いつまでも俺のものでいてくれシャーラ。」



過剰に魔法をかけられたエルナーのどんよりとした瞳を見て
私は思わずエルナーの胸に顔をうずめて泣いた。


私はひどいことをしたんだ。


自分が愛されたい一心で、人のことなど顧みず、
最低の方法で魔法を使い、愛する人を壊してしまった。


私がかけた魔法で、エルナーの心を奪い、
生まれてくる子供からは父を、トリアからは夫を奪ったと思った。


さようなら。愛しい人の幸せな未来。
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