強引同期と偽装結婚することになりました
お父さんとお母さんはてっきり、うちに泊まるのかと思っていたのに、話を終えるとホテルを予約しているからと出て行ってしまった。


「そうや、葵。これやるわ。お父さんなあ、臨時収入が入ったからお小遣いやる」


「お父さん・・・」


「まあ、無理せんと、頑張れ」


帰り間際にそっと渡された一枚の茶封筒。かなりの厚みがある。結婚詐欺にあった私のために二人が用意してくれたお金。

その気持ちとお父さんが遠慮しないように、受け取りやすいように言ってくれた言葉がたまらなくて思わず、涙が零れた。


「・・・ありがとう。大事に使わせてもらうね」



「葵、また勝手に行動して悪かったな。でも、葵に話す前にご両親に許可をもらう方が先かなって思ってさ」


「もう、優木くんの暴走に驚いたりしないよ。でも、偽装結婚は予想外だったけどね」


「それは、俺が嫌だったんだ。あのときは本当に葵と結婚したいって、気持ちの方が強かったのに、いつの間にか欲が出た。好きな人と結婚出来る姿をばあちゃんに見せてあげたいって」

「うん。それはすごく素敵なことだと思う」

「でも、その欲のほうが強くなって、肝心な葵の気持ちすら見えてなかったし、まるでご両親に葵じゃなくてもいいなんて思われてる気がしてたまらなかった。だから、結婚じゃなくて偽装結婚にしたかったんだ。勝手ばかりでごめんな」


「ううん。私のためにありがとう。あっ、お母さんが買ってきてくれたケーキ食べようか」

そう言って、立ち上がり、コーヒーを淹れることにした。ちゃんと優木くんの気持ち伝わったよ。誠意もちゃんと届いたよ。


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