久瀬くんは〇〇恐怖症
皐月side

『お願いっ…お願いだから、もう離して…』

頑なに俺を拒んだ下梶。

きれいな涙を流して、

それでも決して俺を見ようとしなかった。

「皐月、どうしたの?なにがあったの?」

泣きながら階段を降りて行った下梶を見て、

結奈が困惑したように俺に聞く。

けど俺にはそれに答える余裕がない。

ただただ、合わされなかった視線を

下梶が去って行った方に向けることしかできない。

…なんで、俺を拒絶した?

そっと振り払われた手を見やる。

…ただ聞きたかった。

ただ喋りたかった。

ただ…あいつの笑顔が見たくなっていた。

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