現実世界で捕まえて
ありえない話
部屋に帰ると
知らない男がそこにいた。
人間とは想定外の事が起こると頭が回らない。
そして身体も回らない。
叫び声を上げたくても
声は出ないし
逃げ出したくても
足が震えて動けない。
フリーズ……部長のパソコンが夕方フリーズし、血走った目でキーを叩いていたっけ。
同僚と笑っていたのを急に思い出す。
前触れだった?
男は小さなソファに山積みにしている私の洗濯物から、ピンクのブラを手にしてニッコリ微笑む。
変態?どろぼう?痴漢。
きっと夢。まぼろし。
「おかえりなさい」
まぼろしの男は優しい声で私にそう言った。
襲われる。
逃げなきゃ。
森の中でクマに遭遇した時のように(会った事ないけれど)ジリジリと相手の目を見て後ろに下がる。
イケメンな泥棒だな。
しかも黒のスーツが似合ってる。
細身で色白。塩系のアッサリ顔が私好みで
髪の長さもミディアム系で私好みで
目も綺麗で私好みで……全体的に私好みなんですけど!
こんな形で出会ったのが残念でたまらない。
まぁ違う形で出会っても
私みたいな地味な女には縁のない男性。
後ずさる足がドアに近づいてきた
この扉を開いて三歩で玄関。
頑張れ私。
もう少しで逃げ出せる。逃げるが勝ち。
逃げ出して走って
近くのコンビニまで走って、かーらーの交番!
脳内シュミレーションに一筋の希望を託していると
「逃げられませんよ」
男は私の心を見透かすように軽く言い
パチンと指を鳴らすと、私の身体は飼い主に呼ばれた犬のように男にまっしぐら。
男はソファに座り
私は男の前にストンと正座する形になり
またフリーズ
でも今度は恐ろしくて動けないんじゃなくて
見えない力で抑えられていた。
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