現実世界で捕まえて

「いや、このエメラルドの指輪なんですけど」
ネイルアートもしてない私の指がショーケースを指す。
青みがかった綺麗な緑色の石。
スクエアの両端に小さなダイヤがキラキラ度をアップさせていた。

「こちらでしょうか?」
冷やかしなら帰って欲しい……的なムードになっているので

「嫌ならいいです。他の店で買います」
キッパリ強気で言うと
奥の方から髪をきっちりまとめた女性が現れる。

「こちらですねお客様」
主任さんだろうか
私の目の前にいた茶髪の店員さんをド突き、笑顔を見せてチェンジした。

「私の年令には早いかな」
綺麗だけどお母さんに似合いそう。

「そんな事はございません。若い方にも人気です」

エメラルドをうやうやしくショーケースの上に出し、私に向けてきたので指に入れると……サイズがデカかった。

「お時間をいただけたら、サイズ直しは無料でさせていただきます」
低姿勢の笑顔。
先月もこの笑顔が欲しかったよ。

「サイズ直しで待たされるの嫌いなの。すぐ持って帰りたいから、そっちのルビーを見せてもらいますか?」

よく言うよな私。

「かしこまりました。ご予算的にはおいくらでしょうか」

「特にないの。気に入った物があればキャッシュでお支払いします」

そう言うと
店員さんがいつの間にか集まって来て「おおっ」って目を丸くして驚いている。

だよねーこんな普通のOLが、普通言わないよねこんなセリフ。
自分で言ってムズムズしてきたわ。

高そうな指輪を目の色変えて探す店員さん達。
そんなお姉さん達を見て
私は頭の中で消費税を計算する。

こんな高い買い物した事ないから
80万持ってるけど、70万の指輪を買ったとしたら税込756000円?いや消費税高い。税込で80万に抑えなきゃ。

頭の中で計算する私はやっぱりニセモノセレブでございます。
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