現実世界で捕まえて


「おかえりなさい」

部屋に戻るとぷーんと美味しそうなビーフシチューの香りが鼻をくすぐる。
急にお腹空いてきた。

「ただいまです。お弁当美味しかったです。ありがとうございます」
お礼を言うと死神はエプロン姿で「当然でしょう」と返事する。

嫌なヤツ。
でも美味しかったから反論しない。
また明日お願いしたい。

向かい合っての夕食タイム。
クレソンのサラダがまた美味しい。

「魔法じゃなくて自分で作ったの?」って聞くと嫌な顔をされてしまった。

「魔法って言わないで下さい。邪悪な魔法使いと一緒にしないように」

邪悪って
十分に死神も邪悪ですけど。

「じゃぁなんて言えば?」

「そうですね。能力でしょうかね」

そしてドヤ顔。うわー嫌なタイプ。

「死神さんなら何でもできるんでしょう。自分で作るのってバカくさくないの?」

「その質問がバカくさい」

「どうして?」

「下等な人間には理解できないでしょうね」

「すいませんね」

ムッとしながらも
美味しいからおかわりをする私。

「死神さんはずっとここに居るの?」

「仕事ですから」

「そっか……」

目線を外して部屋の隅に置いてある、81万円のダイヤが入った紙袋をジッと見つめる。

「明日もお弁当作ってくれる?」

「いいですよ」

「ありがとうございます」


ずっと一緒に居るのなら……私はひとつの決断をする。



< 29 / 103 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop