現実世界で捕まえて
トントンってノックの音がする。
ひとりになりたくて無視していると、目の前に急に現れてベッドから転げ落ちそうになった。
壁をスルーするなっ!
「出かけますよ」
「はい?」
「食事に行きましょう」
「だって晩ご飯できてるんでしょう。それ食べるからいいです」
落ち込んだ声で返事をすると
「出かけましょう」
死神は無表情でそう言い、軽く手を叩くと
そこはもう
マンションの外。
コートを着せてくれてありがとう。
せめてメイク直しはしたかったけどね。
「死神さん。私は今日は出かける気分じゃなくて、部屋でひとりで落ち込んで泣きたい気分で……」
平野課長のお見合い話をリアルに聞いてショックなんです。
スタスタと歩く死神の背中に訴えると、彼は急に立ち止まり振り返る。
スタンドカラーのサラッとしたブランド物のコートが良く似合う。
全身黒で統一した死神は、乾いた冬の街にとても馴染んでた。
「美味しいチャーハンの店をテレビでやってました」
静かな声で私に告げる。
「チャーハン好き」
「デザートの杏仁豆腐がまた絶品らしいです。そこの店にしましょう」
「でも……」
「行きますよ」
有無を言わさずまた彼は前を向いて歩き出すので、私はその背中を追いかけた。