現実世界で捕まえて
「うっせーんだよ!」
頭上から響く怒鳴り声に、身体がビクリと反応する。
「死なせろ!」
切羽詰まった男の声を探して上を見ると、5階建てのビルの屋上で男が叫んいた。
「俺の苦労がわかるか?金も仕事も全て失った。それでもまだ借金まみれだ。死んでやる!」
自殺?屋上から飛び降りるの?
いや、ちょっと待って。
騒ぎが大きくなり、周りに人が沢山集まって来た。
『警察来る?』『マジ落ちるの?ないわー』『ここ自殺現場になんじゃね?』『早まるな。やめろー』など、色んな声があちこちで飛び交い男を見つめていた。
『投稿投稿』って、スマホを向ける人が多いのに驚く。
「俺の決心は変わらない。世の中全て金だ。俺は金に負けたんだチクショー!」
詐欺にあったのかな。
でも死んじゃダメだよ。
家族はいないの?家族の事を考えてちょうだい。
胸に手を当て『飛び降りないで』って、心の中で叫びながら男を見上げていると
「行きましょう」と、死神が私の肩をそっと掴む。
なんですと?
「関係ないでしょ。さぁ行きましょう」
クールすぎるよ死神さん。
「心配じゃないの?飛び降りたら死んじゃうよ」
「知り合いですか?」
「違うけど」
「では、行きましょう」
ちょっと待ってーーー!
肩を掴んで誘導しようとする死神さんの手を払う私。