現実世界で捕まえて

どうやって助かるんだろう。
私は周りをキョロキョロ見ていたら
1人の女性がスッと群衆から飛び出して。警察官が持っていたスピーカーのマイクを奪う。

「あなたっ!」
キーンとした金属音と同時に高い声が響いた。

「宝くじが当たったのよ」

女の声にみんなで『えっ?』ってなる。

「あなたが買った宝くじ。数字を当てるくじ。私と子供達の誕生日で買った宝くじが当たったのよ」

女の声が響いたのか、屋上の男は動きを止めて大人しくなった。

「借金を返せる分が当たったのよ。だから降りてきて。その後は考えましょう。子供達が待ってるから。今日は私の誕生日でしょう。私の誕生日に死ぬって何よバカ!」

奥さんの説得が一番だよね。

「もう死ぬ理由はないの。早く戻って来て。子供達がケーキ作ってくれたのよ。子供達にはあなたが必要なの。私にもあなたが必要なの」

奥さんの涙混じりの声に、私も周りの人達も一緒に泣いていた。

でも
一番泣いているのは屋上の男だろう。

「悪かった。ごめん。俺が悪かった。飛び降りない。死なないからもう一度やり直そう」

男は奥さんに泣きながら叫んでから、大人しく超えた柵を戻り、屋上に潜んでいた警察官に両脇を抱えられて私の視界から消えて行った。

人騒がせで警察から怒られるとは思うけど
死ぬほどではない。

よかった。

パチパチと拍手が回りから湧き
私も一緒に手を叩く。

よかった。
本当によかっ……た……よね。

死神の冷たい視線は、冬の温度をまた下げる。
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