現実世界で捕まえて
「お願いします」
「そうだねー。今度一緒にご飯付き合ってくれたら内緒にする」
はい?
「えっと……みんなでランチとか?」
「そうじゃなくて」
平野課長は照れた仕草で目線を遠くへやってから、また戻して私を見つめて笑顔を見せる。
ドキリ。朝から平野課長の笑顔を独占。今日はなんていい日なんだろ。
「ふたりきりで食事をしたい。バレンタインのお返しも兼ねて」
「え?いや……それは……」
それはマズい。私はブンブンと首を横に振る。
「俺じゃ嫌?」
あぁそんな悲しい顔で私を見ないで下さい。
「いえ。あの、平野課長は本社の常務のお嬢さんとお見合いした噂を聞きまして。だから……その……」
「あ?それ?それはウソの話」
「え?」ウソ?
「あれは常務が勝手に進めた話で、俺は断った。だから問題はない。土屋さんとゆっくり食事をしたいんだ。どうかな?」
ウソ?断った?え?本当?
頭の中が真っ白になってしまった。
「俺はフリー。だけど今、前から気になっている子にバレンタインのお返しを口実にデートを申し込んでいる。すっげドキドキしてる。断られたら立ち直れない。どう?」
デート?夢じゃないよね。
あぁ嬉しくて、空も飛べるかも。
私は「ぜひお願いします」って平野課長に言うと、平野課長は「やったぁ」って子供のように喜んでいた。
爽やかな少年のような笑顔に朝から胸キュン。
「今日はいい日だ」
課長は私の頭をポンポンって触って、恥ずかしそうに先に行ってしまった。
私はその広い背中を見送った。
あぁ
ここでやっと自分でわかった。
私は恋がしたいんだ。トキメキたいんだ。
そして幸せになりたいんだ。
世界中の人に『ありがとう』って言いたいくらい、幸せで泣きそうな朝だった。