現実世界で捕まえて
いつものようにフロアを歩き、遠くの経理から配ろうと思ったら
足が止まる。
思いっきりお盆の湯のみをひっくり返す寸前。
何で?何でどうして?
どうしてどうして?
何で?
私は近くのカウンターにみんなのお茶を放置し、桜子ちゃんの元へ突っ走る。
「どしたの?間違えた?」
「ちっ……ちが……ちがう。あれ、あれ誰?」
「え?」
眉をひそめる桜子ちゃんのベストを引っ張ると、桜子ちゃんは近くの後輩にお茶配りを任せ、私は遠くの経理のデスクを指さす。
「あれ誰?」
「あれってどこ?お客さん来た?」
「違うって。あそこ、湯浅課長の隣」
経理は4人しかいないはずなのに、ひとり増えてる。
机が5つになってる。人が5人いる。
そして
増えたのは……我が家にいるはずの死神だった。
スーツを着て
当たり前のように仕事してるって
何これ?
「経理の西上係長でしょ。どしたの?」
「しにがみ?」
大きな声を出す私の頭を、桜子ちゃんは軽くド突く。
「バカ。にしがみ。にしがみかかりちょう。どしたの留美?」
「あの黒い湯のみの?」
「そうだって。早く配って来なさい。お茶が冷めるでしょう」
夢か幻か……死神がうちの会社の経理係長。