現実世界で捕まえて

三階に存在する
何でも置き場みたいな資料室に私達は入って向かい合う。

「どーゆー事?」
もう
それしかないでしょう。

「どうしてここに居るの?なんで同じ職場で普通に仕事してるの?」
泣きそうな声になって私が聞くと

「『見守って下さい』って、言ったでしょう」
真面目な顔で言われてしまった。

「ちーがーう。それは『邪魔しないで』って意味だったんです!」

「それならそう言って下さいよ。こっちは大変だったんですよ。なんせ人間の記憶を変更して入り込むんですからね。過去の資料を探して例を見つけてからの書類提出でしたから、いやー疲れました」

昨夜
一生懸命仕事してたのは、同僚になる為だったの?

身体中から力が抜けて、壁に身を預ける私。

もう嫌。ずっとここに居たい。
虫のように壁にへばりついていたい気分。

「それとあの男は止めなさい」

「へっ?」

「平野課長です。あれは最低な男でしょう。本当に見る目がない。以上」
死神は言い切り、不機嫌顔で資料室を先に出ようとした。

「どうしてそんな事を言うんです?死神さんには関係ないでしょう。私の恋を邪魔しないで下さい。平野課長は優しくて素敵な人なんです」
脱力しながらも、必死で反撃すると

彼は扉に向かっていた身体を私の方にまた戻し、無表情で一歩近寄り急接近。

綺麗な顔がすぐ目の前。
近すぎるんですけど。怖いんですけど。
背中を壁に預けて逃げ場のない私は、もしかしたら怒鳴られて消されちゃうかもって身構えてしまう。

反射的にギュッと目を閉じたら

頬に彼の冷たい唇が、そっと重なった。

キス……した?
驚きで言葉も出ない。

「こんな事されたんでしょう彼に。こんなキスでだまされるなんて。本当に情けないバカですよ」って軽く言ってから。私をひとりその場に残し先に資料室を出て行った。

情けないバカで悪かったね。

顔を真っ赤にして、心の中で反論する私だった。




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